Episode 17
「挨拶あり」98%に残る違和感
業界に問われるサービスの本質
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*コラムは「交通界」様のご厚意で転載させて頂いております
*画像はイメージです
「タクシー乗務員は何故、お客様に『挨拶』をしないのだろう?」。これは僕がタクシー業界に身を置くようになって感じた大きな違和感だった。
大丸タクシーが所属している協同組合では、毎年「モニター調査」を実施している。協組加盟会社の自社以外のタクシーに乗客として乗車し、その乗務員の運転及び接遇、さらには車両の手入れ等について評価をする調査をするわけだ。その調査項目の中に「乗車時に挨拶があったか?」と言う項目があるのだが、僕はこの項目に「あった」と答えたことがほとんどなかった。
僕は10年以上数百件の調査を行ったのだが、乗車時に「ご乗車ありがとうございます。どちらへ参りましょう?」レベルの挨拶をされたのはたった2回だけだ。乗務員は本当に挨拶をしないのだ。ほとんどの乗務員の乗車時の対応はこうだ。ドアが開き、乗車すると「はい、どうぞ!」と声を掛けられる。シートに座るとバタンとドアを閉め、こちらが行き先を告げるのを黙って待っている。こちらが「天王寺までお願いします」と告げると、「天王寺ですね」を復唱する人がいる。「はい、わかりました」とだけ言う人がいる。頷くだけで出発する人がいる。何も反応せず、黙ってスタートする人までいる。挨拶の「あ」の字もないのだ。
さらに驚いたのは、このモニター調査の集計結果を見たときだ。「乗車時に挨拶があった?」の項目98%「あった」になっている。それも毎年のようにそうなっていた。
僕は数百回やって2回しか挨拶されていないわけだが、僕がどれだけ運の悪い人間だったとしても、この数字はあり得ない。協組でこのモニター調査を実施しているのは「サービス向上委員会」だったのだが、その委員になったときに他のベテランの委員さんに「挨拶があったと判断する基準」について尋ねてみたのだが、「運転手さんが『はい、どうぞ』とかね、何か言いはったら『挨拶があった』にしてるよ」とのことだった。
確かにその基準に照らして言うと、ほとんどの乗務員が「はい、どうぞ」くらいは言っている。
でも、これは挨拶とは言えないのではないか?当時の僕はまだ30歳にもなっていなかったのだが、サービス向上委員会の席上で「モニター調査の『挨拶があったか?』の項目ですが、この協同組合では『乗務員が何と言ったら挨拶があったと見做すか?』、その基準を決めるべきではないでしょうか?」と提案してみた。
会議室は微妙な沈黙に包まれたが、一人のベテラン委員が、「まぁ、運転手さんも何て言ったらいいか分からんやろうし、恥ずかしいやろうしねぇ」と言って、ハハハと笑った。他の委員さんたちもハハハと乾いた笑い声を発して、その話題は見事にスルーされてしまった。正直言って、その反応には素直に驚いた。基準を設けず、「タクシードライバーがどうあるべきか?」についての議論もせず、98%と言う数字に満足してしまっていては「サービス改善」と言う目的を果たせない。今からでも遅くないから、そこは真剣に議論すべきところだと思う。
乗務員が挨拶をしないからと言って、その乗務員の接客が不快であるとは限らない。挨拶をしなかっとしても、良質なサービスをする乗務員だってもちろんいる。だからこそ、挨拶がないことが逆に不自然に思えるのだ。僕は、タクシー乗務員はお客様に対して会社名と自分の名前を名乗って挨拶しなければならないと思っている。
「ご乗車ありがとうございます。大丸タクシーの秋山と申します。どちらへ参りましょうか?」
くらいの挨拶は、最低限必要だと思っている。なぜなら、「初めてお会いするお客様に対して会社名と名前を名乗って挨拶をする」ことは、一般社会の常識に照らして考えても当たり前のことだからだ。さらに、そもそもお客様は「今から乗車するタクシーは大丸タクシーだ」と認識して乗車されるわけではない。そういうお客様に「あなたが乗車されるのは大丸タクシーで、乗務員は秋山って言うんですよ」と言葉で伝えることには、間違いなく「意味」があるのだ。タクシー事業者としてどうありたいのか?
タクシー乗務員としてどうありたいのか?
それを問い掛け続けることこそが「サービス改善」に繋がると思うのだが、どうだろう?
遠くない将来、自動運転の時代になっていくだろう。タクシーの運転については多くの部分を「機械」に任せる時代が来るかも知れない。しかし、「人のするサービス」はそう簡単に無くならない。そうだとしたら、「サービスコンシェルジュ」たる乗務員は、本当の意味で「サービスの質」を問われるようになるのだ。
そんな時代が来たときに、この程度の挨拶を当たり前にできない乗務員は、真っ先に淘汰されることになるだろう。
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